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帯広で見つけた「二刀流」の勝者。炎はなぜ居酒屋とスーパー惣菜を両立できるのか

月に一度のペースで帯広に通っていると、街の中で同じ看板に何度も出会うようになる。

白地に、墨をたっぷり含ませたような大きな『炎』の文字。「炎」の看板だ。最初は帯広の居酒屋として目に入る。

ところが、スーパーをのぞくと、今度は惣菜売り場にも同じ「炎」がある。地元スーパーのフクハラで見かけ、ダイイチでも見かける。

ここで少し引っかかった。関西でいえば、餃子の王将のように、ロゴやメニューの印象だけで「ああ、あの王将か」と文脈ごと共有されているブランドがある。

もしスーパーに王将の看板が出ていたら、多くの人は同じ会社だとすぐ分かるだろう。

だが、北海道の外から通っている自分には、「炎」が居酒屋と惣菜売り場でどうつながっているのかがすぐには分からなかった。

それで調べてみると、炎を運営する伸和ホールディングスは、単なる居酒屋チェーンではなかった。

食品の製造、販売、小売、酒類販売、飲食店運営、食品製造工場運営までを手掛ける企業であり、2025年3月期の連結売上高は63.8億円、営業利益は2.07億円。

事業構成を見ると、飲食だけでなく物販がしっかり育っており、外食と中食をまたぐ会社としての輪郭がはっきりしている。

伸和ホールディングス、ほかに 2 件この会社の特徴を一言で言えば、「二刀流」だ。

一方では「炭火居酒屋 炎」として夜の外食需要を取りにいく。他方では「美唄焼鳥・惣菜 炎」として、スーパーや商業施設で日常の食卓に入り込む。

しかもその両方を、北海道という同じ生活圏の中で重ねている。

実際、帯広エリアでは2016年に炭火居酒屋 炎 帯広駅前店を出店し、その直後にフクハラ西帯広店へ惣菜業態を出した。

2017年にはフクハラ西18条店にも展開している。つまり、「居酒屋として知ってもらう」と「惣菜として日常接点を持つ」を、かなり早い段階から同じ地域で並行して進めていたわけだ。

この構造は、消費者から見ると分かりやすい。

スーパーで買った惣菜がおいしかった。

生つくねやザンギの味を知った。

すると次に「今日は飲める日だ」というタイミングが来たとき、居酒屋の炎が候補に上がる。

逆もある。居酒屋で食べた味を、後日スーパーで見つけて手に取る。ブランドとの接点が、外食の一回きりで終わらない。

マーケティング用語でいえば、接触頻度の最大化だが、炎の場合は広告よりも生活動線そのものの中にブランドを置いている点が強い。

レポートでも、同社はドミナント出店によって顧客接点を増やし、認知度を高め、潜在需要を掘り起こす戦略をとっているとされる。

2024年7月末時点で、飲食は居酒屋33店、物販は総菜販売50店を展開しており、単なる店舗数の多さではなく、「街の中で何度も会うブランド」を作っていることが読み取れる。

さらに面白いのは、この二刀流が現場の気合いだけで成り立っているわけではないことだ。

伸和ホールディングスは、岩見沢工場を食品製造拠点として持ち、飲食店向けセントラルキッチンとブランド冷凍食品の製造を担っている。

資料では、札幌市と岩見沢市のセントラルキッチンで主力商品の仕込み製造を行い、品質の安定と迅速配送による鮮度維持を図っていると説明されている。

2022年には塩ザンギの自動包装ラインも新設している。つまり炎は、店で焼くだけの居酒屋でもなければ、売場だけ借りた惣菜ブランドでもない。製造、物流、販売のそれぞれを自前化しながら回している。

この構造は、コロナ禍のような局面でも効く。飲食店に逆風が吹いた時期、外食に一本足打法だった企業は厳しかった。

一方で炎は、もともと物販と中食の導線を持っていた。同社はコロナ禍の教訓からテイクアウトやデリバリー強化を継続し、外食だけでなく中食需要に対応することで収益安定性を高めていると整理されている。

2024年3月期の売上構成で物販が35.2%を占めていたことを見ても、これは補助線ではなく、事業のもう一方の主軸だ。

帯広で実際に売場を見ていると、もう一つ気になることがある。値引きだ。夕方の時間帯になると、惣菜に2割引きや半額シールが貼られていることがある。

「こんなに安くして大丈夫なのか」と思う。これは公式にそう説明されているわけではないので推測になるが、炎のように製造、物流、店舗運営を一体で回せる会社にとって、値引きは単なる苦肉の策ではなく、ロス削減と新規顧客獲得を兼ねた施策として機能しやすい。

同社はドミナント展開による物流・販促効率化、食材や人材の融通、廃棄ロス低減を強みとしている。帯広の売場で見える値引きの背景には、そうした全体最適の発想があるのではないか。かなり筋のいい見立てだと思う。

重要なのは、炎が売っているのは焼き鳥やザンギだけではない、ということだ。売っているのは「北海道の移動生活にフィットする食のインフラ」だ。

運転があるから居酒屋には行けない。けれども、ホテルや車中泊の夜に、スーパーで買った炎の生つくねや惣菜がある。

その瞬間、外食ブランドは中食ブランドに姿を変え、旅人の日常に入り込む。

北海道は広い。

都市のように、いつでも徒歩で店に寄れるわけではない。その土地の移動文化、買い物文化、夜の過ごし方まで含めて最適化した結果として、炎の二刀流は成立しているように見える。

地方の飲食チェーンを語るとき、つい「名物メニュー」や「人気店」という話になりがちだ。だが炎の本質は、むしろそこではない。

外食と中食の両面で顧客の生活導線を押さえ、セントラルキッチンと物販網で品質と収益を支え、地域の中で接触頻度を上げ続ける。

その設計思想にある。次に帯広へ行く時も、またあの『炎』の文字を探してしまうだろう。

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