我々欲の定義
我々欲(われわれよく)とは、自分だけでなく、関わる人々全体が豊かになることを願う欲求です。
従来の「我欲(自分だけが得したい)」でもなく、「無欲(欲を持たない)」でもない。みんなで良くなりたい、という第三の欲望のかたちです。
「自然体」の誤解
よく「自然体でいこう」と言いますが、多くの人は誤解しています。
よくある誤解
「自然体 = 欲を持たない、無理しない、力まない、向上心を持たない」
しかし、これは本当に「自然」でしょうか?
本当の自然
- 木は空に向かって伸びる(向上心)
- 種は子孫を残そうとする(繁殖欲)
- 根は水と栄養を求める(欲望)
- 森は拡大しようとする(増殖)
自然は、めちゃくちゃ欲がある。
自然界を観察すれば明らかです。すべての生命は、生き延びようとし、繁栄しようとし、増殖しようとしています。
欲があるのは、当然なのです。それが自然。
問題は「欲の種類」
欲があることは悪くありません。問題は、どんな種類の欲か、です。
我欲(自分だけ)
特徴:
- 自分だけが得する
- 他者を犠牲にする
- ゼロサムゲーム(誰かが勝てば、誰かが負ける)
結果:
- 短期的には得する
- 長期的には持続しない
- 関係が壊れる
- 最終的に自分も損する
自然界の例: 癌細胞
- 自分だけ増殖する
- 他の細胞を犠牲にする
- 結果:宿主が死ぬ = 自分も死ぬ
- 持続不可能
無欲(欲を持たない)
特徴:
- 向上心を持たない
- 現状維持
- 成長しない
結果:
- 停滞する
- 環境変化に対応できない
- 衰退する
自然界の例: 絶滅種
- 環境変化に適応できない
- 競争に負ける
- 絶滅する
我々欲(みんなで)
特徴:
- みんなで良くなる
- 共存共栄
- Win-Win-Win
- 循環する
結果:
- 長期的に持続する
- 関係が強化される
- 全体が繁栄する
- 自分も満たされる
自然界の例: 森の共生
- 木は菌類と共生(菌根菌)
- 木は糖を与え、菌は水と栄養を供給
- 両方が繁栄する
- 持続可能
自然界は「我々欲」で成り立っている
自然界を注意深く観察すると、ほとんどの成功例は「我々欲」で動いています。
例1: 花と昆虫
- 花は蜜を与える
- 昆虫は花粉を運ぶ
- 両方が繁栄する
- 共存共栄
例2: 腸内細菌
- 人間は住処と栄養を与える
- 細菌は消化を助け、免疫を強化する
- 両方が健康になる
- Win-Win
例3: 森の生態系
- 捕食者と被食者のバランス
- 分解者が栄養を循環させる
- すべての生物が役割を持つ
- 全体が持続する
自然界の「成功事例」は、ほぼすべて共存共栄です。
一方、「我欲」だけで動く生物(外来種、癌細胞)は、短期的には成功しても、長期的には持続しません。
人間社会における「我々欲」
我欲の限界
現代社会の多くの問題は、「我欲」から生まれています。
経済:
- 企業が利益だけを追求 → 環境破壊
- 個人が富だけを追求 → 格差拡大
政治:
- 政治家が票だけを追求 → ポピュリズム
- 国が自国だけを優先 → 戦争
人間関係:
- 親が子供に「やったったのに」 → 毒親
- 恋人が見返りを求める → 依存関係
すべて、持続しません。
我々欲への転換
一方、「我々欲」で設計された仕組みは、持続します。
経済:
- 社会的企業(ソーシャルビジネス)
- ESG投資(環境・社会・ガバナンス)
- 循環型経済
政治:
人間関係:
- 溢れてから渡す(見返りを求めない)
- 共存共栄の家族モデル
これらは、長期的に持続します。
我々欲の実践: 溢水型創造(いっすいがたそうぞう)
我々欲を実践する具体的な方法が、溢水型創造(いっすいがたそうぞう)です。
原則1: 自分を満たす
- まず、自分が満たされる
- 面白いことをする
- 楽しいことを優先する
原則2: 溢れるまで待つ
- 無理に出さない
- 我慢もしない
- ただ、満たし続ける
原則3: 溢れたら渡す
- 動機: もったいないから
- 感情: 受け取ってくれてありがとう
- 期待: 特になし
原則4: また満たす
- 見返りを待たない
- また自分を満たす
- 循環する
この循環が、我々欲の実践です。
なぜ「溢れてから」なのか
溢れる前に与えると(我欲の罠)
自分の状態: まだ満たされてない(欠乏)
↓
与える: 無理して渡す
↓
心理: 「犠牲を払った」と感じる
↓
相手が何もしてくれない
↓
感情: 「あれだけやったったのに!」
↓
結果: 恨み、見返りを求める
これは、我欲が満たされなかった結果です。
溢れてから与えると(我々欲の循環)
自分の状態: すでに満たされてる(充足)
↓
溢れる: もう入らない
↓
与える: もったいないから渡す
↓
心理: 「受け取ってくれてありがとう」
↓
相手が何もしてくれなくても
↓
感情: 特に何も思わない(期待してない)
↓
結果: 恨みも、見返りもない
これが、我々欲の循環です。
我々欲と概念創造型マーケティング
我々欲は、概念創造型マーケティングという手法と相性が良い。
従来のマーケティング(我欲)
- 競合を潰す
- 市場を奪う
- 自社だけが得する
- ゼロサムゲーム
概念創造型マーケティング(我々欲)
- 新しい概念を創る
- 誰でも使える
- 業界全体が盛り上がる
- Win-Win-Win
例: 政策エンタメ
政策エンタメという概念を創造し、誰でも書けるようにする。
- 自分も面白い(書くのが楽しい)
- 読者も面白い(娯楽として楽しめる)
- 社会も良くなる(政策が実装される)
これが、我々欲の実践です。
我々欲の実例
実例1: 地域創生リーグ
地域創生リーグは、我々欲の政策です。
仕組み:
- 豊かな自治体(湊戸区)が厳しい自治体(夕焼市)を支援
- 夕焼市は再生する
- 湊戸区は注目を集める
- 両方が得する
従来の政策(我欲):
- 国が一律に支援 → 効率悪い
- 自治体が競争 → 格差拡大
地域創生リーグ(我々欲):
- 自治体同士が支え合う
- 全体が繁栄する
- 持続可能
実例2: 祖父母育て支援
母屋の約束で提案された祖父母育て支援も、我々欲の政策です。
仕組み:
- 親は仕事に専念できる(ストレス減)
- 祖父母は孫と過ごせる(生きがい)
- 子供は愛情豊かに育つ(安定)
- 全員がWin
従来の政策(我欲):
- 親だけが育てる → 親が疲弊
- 保育所に預ける → 質の問題
祖父母育て支援(我々欲):
- 世代間で支え合う
- 全体が幸せになる
- 持続可能
実例3: 溢れてから子供に渡す
子育てでも、我々欲は機能します。
我欲型の親:
- 自分を犠牲にして子供に尽くす
- 「こんなに育ててやったのに!」
- 子供を恨む
- 持続しない
我々欲型の親:
- まず自分を満たす
- 溢れたら子供に渡す
- 「お前たちを裏見たくないから、俺は俺を優先する」
- 子供も自立する
- 関係が良好
- 持続する
我々欲の設計原則
我々欲を実践するには、以下の5つの原則を守ります。
原則1: まず自分を満たす
- 自己犠牲はしない
- 面白いことを優先する
- 楽しいことをする
原則2: 溢れるまで待つ
- 無理に出さない
- 欠乏状態で与えない
- 充足してから
原則3: もったいないから渡す
- 「相手のため」じゃない
- 「溢れてもったいないから」
- だから見返りを期待しない
原則4: 受け取ってくれてありがとう
- 与える側が下
- 受け取る側が上
- 権力構造が逆転してる
原則5: また満たす
- 見返りを待たない
- また自分を満たす
- 循環する
この5原則を守れば、「やったったのに」にならない。
我々欲の限界と注意点
我々欲は万能ではありません。
限界1: 優先順位のセンスが必要
「何を優先するか」のセンスは、人によって異なります。
- 「子供の世話が楽しい」と感じる人
- 「子供の世話は義務」と感じる人
このセンスは、部分的に学習可能ですが、完全には変えられないかもしれません。
限界2: 環境的に選択できない状況もある
- 介護が必要な親がいる
- 病気がちな子供がいる
- 経済的余裕がない
など、こういった状況では、「溢れてから渡す」どころではないかもしれません。義務感でやるしかない場面も、確かにあります。
ただし、知っておくことには価値があります。
たとえ今は実践できなくても、「こういうことがあり得るんだな」と知ることが、暗闇の中の一筋の光になるかもしれません。
注意点: 「我々欲」を押し付けない
「我々欲」も、押し付ければ「我欲」になります。
- 「みんなのためだから、お前も協力しろ」→ これは我欲
- 「溢れたから渡すよ。いらなければいい」→ これが我々欲
強制した瞬間、我々欲ではなくなります。
知っておくことの価値—希望が体を動かす
たとえ今は実践できなくても、知っておくことには価値があります。
事業をしていても、人生でも、真っ暗な状態があります。先が見えない。どうすればいいかわからない。心理的にかなり苦しい。
そんな時、「少しだけでも希望」があれば、体が動きます。
希望とは
- 「こうなるかもしれない」
- 「こうしたらこうなるかもしれない」
- 「100%確実じゃないけど、可能性はある」
少しでもいい。0.1%でもいい。
体が動くと
- 空気が動く
- 人に会う
- 情報が入る
- 偶然が起きる
- 状況が変わる
思ってたことと違うかもしれない。でも、いい。正解じゃなくてもいい。計画通りじゃなくてもいい。とにかく動くことが大事。
動けば、空気が動く。空気が動けば、状況が変わる。
だから、「知っておくこと」には価値があるのです。
それが、暗闇の中の一筋の光になることを、願っています。
寄り道は寄り道じゃない
解決は必ずしも一本道じゃありません。
目的に向かう時、思ってたことと違って、必ずしも一本道じゃないことが多い。柔軟にその匂いを嗅いで、寄り道を寄り道と思わない。ただ、北極星だけは見失わないようにする。
そしたら自ずと周りの星が繋がって星座になる。思ってた星座じゃなかっても、名前つけたらいい。
順番だけの違いだと思います。
義務感でやらなければというのと、楽しいからやる。義務感でやってることと、そんなに変わらないことができてるはず。でも、スタート地点が違うから、ゴールが全く違う。
義務感型: やらなきゃ → 我慢 → 疲弊 → 恨み
楽しい型(我々欲): 楽しい → 溢れる → 満たされる → 感謝
Mastery for Service と我々欲
我々欲の思想は、実は新しいものではありません。
我々欲という概念は、2025年に言語化されましたが、その思想は古くから存在していました。
関西学院大学のモットー「Mastery for Service(奉仕のための練達)」は、 まさに我々欲の先駆けと言えます。
Mastery for Service:
- まず自分を高める(Mastery)
- その力で他者に奉仕する(for Service)
我々欲 + 溢水型創造
構造は全く同じです。 THE BRIDGE株式会社は、この「Mastery for Service」の精神を受け継ぎ、 「喜笑豊楽」というコーポレートモットーのもと、 我々欲を実践してきました。
詳しくは:https://thebridge.co.jp/greeting/
まとめ: 本当の自然体は、我々欲
「自然体」とは、欲がないことではありません。
自然は、欲がある。ただし、我々欲。
- 向上心を持つ
- 繁栄したいと願う
- 増殖しようとする
- でも、共存共栄を目指す
これが、本当の自然体です。
我欲ではなく、我々欲で。 自分だけでなく、みんなで。 溢れてから、渡す。
それが、持続可能な欲望のかたちです。
結果的にそうなったら面白い。
ならなかっても(今)面白い。
多分これからも面白いかなと思える。
それ以上何も求めるものない。
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この記事は、有限会社ビーアイティー(BIT)が提唱する「概念創造型マーケティング」の実践として作成されました。
