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「未来の街へ、ようこそ」茨城県境町が描く自動運転社会の現実

「自治体初!自動運転バス」の看板がある建物の前に停車している、カラフルな自動運転バス

あなたが最後に路線バスに乗ったのはいつですか?運転手がいない、スマートフォンで位置を確認でき、車椅子でもペットと一緒でも乗車できる――そんな”夢のような”バスが、実は茨城県の小さな町で毎日33便も運行しているのをご存じでしょうか。

茨城県猿島郡境町は、自動運転バスの定常運行を日本で初めて実現した自治体として、地方交通の未来を切り拓いています。

目次

革命の始まり:「運転手のいないバス」が現実になった日

2020年11月26日、境町は歴史を作りました。自治体が自動運転バスを公道で定常運行するのは、境町が国内で初めてのことだったのです。この瞬間から、SF映画でしか見たことのない光景が、人口約2万4千人の小さな町の日常風景となりました。

なぜ境町が「自動運転先進都市」になったのか

高齢化率36%、公共交通の維持が困難――これは全国の地方自治体が直面する共通の課題です。境町も例外ではありませんでした。しかし、橋本正裕町長をはじめとする町の指導者たちは、課題を嘆くのではなく「ピンチをチャンスに変える」決断を下したのです。

従来の路線バス運営では運転手不足と採算性の問題で持続可能性に限界がありました。そこで境町が選んだのは、最先端技術による地域交通の完全再構築でした。

体験レポート:実際に乗ってみたらこうだった

境町の自動運転バスは、まさに「乗る人のことを考え抜いた」設計になっています:

利用者目線の徹底した配慮

完全無料・予約不要 どなたでも事前予約なしで、無料でご乗車できますという方針は、公共交通の理想形といえるでしょう。高齢者や経済的に厳しい世帯にとって、この無料サービスは生活の足として欠かせない存在になっています。

バリアフリー設計 スロープを装備しておりますので、そのままご乗車いただけますという車椅子対応に加え、ペットをお連れになる場合は、キャリーケースに入れてご乗車をお願いしますというペット同伴可能な設計は、真の意味でのインクルーシブな交通手段を実現しています。

朝7時30分から夕方4時まで土日祝日も運行 午前7時30分〜午後4時まで 土日祝日も運行という安定したダイヤは、通勤・通学・買い物・通院など、住民の生活リズムに合わせた実用的な設定です。

最新アップデート:3ルート体制で利便性が飛躍的向上

2025年2月22日、境町の自動運転バスは新たなマイルストーンを迎えました。「陽光台・山神町ルート」の運行を開始しました。(合計 3ルートを運行中!)

戦略的に設計された3つのルート

第1期ルート(町内循環) 「道の駅さかい」と「猿島コミュニティセンター」を結ぶこのルートは、観光と住民サービスを両立させる基幹ルートです。

第2期ルート(高速バス連結) 高速バス「境町-東京駅線」を利用される方が自動運転バスに乗り換え、町内を回遊することができます。これにより、東京都心と境町の移動がシームレスにつながりました。

第3期ルート(陽光台・山神町) 住宅地エリアをカバーする最新ルートで、日常生活での利便性を大幅に向上させています。

これら3ルートは「エコス」や「高速バスターミナル」での乗り換えが可能で、33便、22か所の停留所という充実したネットワークを形成しています。

アートと技術の融合:「自然と近未来」を体現する車両デザイン

境町の自動運転バスが他と一線を画すのは、その美しいデザインです。一部の車両の外装及び座席カバーには、境町出身の美術家である内海 聖史氏が制作したキービジュアルを採用しています。境町のコンセプトである「自然と近未来が体験できるまち」をイメージしたデザインとなっています。

世界最先端の車両を2つのメーカーから導入

フランス製「NAVYA ARMA」 5台体制で運行中の主力車両。ヨーロッパの自動運転技術の粋を集めた車両です。

エストニア製「MiCa」 MiCaの導入については、日本の自治体で境町が初めて導入しました。バルト三国の革新的な技術を日本で初めて実用化した歴史的車両でもあります。

テクノロジーの舞台裏:24時間365日の安全運行を支える仕組み

境町の自動運転バスの安全性と信頼性は、最先端の遠隔監視システムに支えられています。

**BOLDLY株式会社(ソフトバンクグループ)**が提供する自動運転車両運行プラットフォーム「Dispatcher」で、自動運転バスの運行を管理します。このシステムにより、複数の車両を遠隔地から効率的に管理・監視しています。

株式会社MACNICAは技術面を担当し、車両・システムのメンテナンスを行い、技術面を中心に境町での自動運転バスの安全・安定運行を支援します。

全国が注目:「クルマ・社会・パートナーシップ大賞」受賞の意味

境町の取り組みは、単なる技術実験ではありません。境町における自動運転バスの社会実装の取り組みが、(一社)日本自動車会議所創設の第1回「クルマ・社会・パートナーシップ大賞」において、大賞を受賞しました。

この受賞は、境町モデルが日本の地方創生における成功事例として高く評価されていることを示しています。

他の交通手段との「つながり」:真のMaaS実現へ

境町の自動運転バスの真価は、他の交通手段との連携にあります:

  • 高速バス東京線との接続で都心アクセスを確保
  • カーシェアリングで個人移動をサポート
  • サイクルシェアリングで最後の1kmをカバー

これらの組み合わせにより、住民は車を持たなくても十分な移動手段を確保できる環境が整っています。

視察殺到:全国の自治体が境町に学びに来る理由

学術・ビジネス目的での視察や、自治体・議会等での視察につきましては、事前予約制・有償での対応とさせていただきますというほど、境町への視察希望が殺到しています。

なぜ境町モデルが注目されるのか?

  1. 技術導入だけでなく、住民の生活改善に直結している
  2. 持続可能な運営体制を構築している
  3. 他の地域でも応用可能なスケーラブルモデル
  4. 民間企業との効果的なパートナーシップ

未来への展望:境町から始まる地方創生の新しいカタチ

境町の自動運転バス事業は、単なる交通手段の提供を超えた地方創生の象徴となっています。ルートは、今後住民の要望に合わせて順次拡大し、利便性を高めていく予定です。

境町モデルが示す地方の新しい可能性

テクノロジーは地方のハンディキャップを解消する道具になる――境町の成功は、人口減少や高齢化に悩む全国の地方自治体に希望を与えています。

小さな町だからこそできる迅速な意思決定と実行力が、大都市圏では困難な先進的取り組みを可能にしました。

まとめ:境町が示す「真の技術社会実装」とは

八王子での軽傷事故により全国の自動運転プロジェクトに影響が及ぶ中、境町の自動運転バスは今日も変わらず住民の足として活躍しています。無料で誰でも利用でき、車椅子でもペットと一緒でも乗車でき、高速バスとも接続する――これは単なる技術デモンストレーションではなく、真に住民のための公共交通です。

「ゼロリスク」を求めすぎて技術進歩が停滞する日本で、境町は安全性と革新性を両立させる道筋を示しています。

人口約2万4千人の小さな町が実現した「移動の未来」は、やがて日本全国、そして世界各地の地方都市のモデルケースとなっていくでしょう。境町の挑戦は続きます。そして私たちは、技術と社会の調和を実現する歴史的実験の最前列にいるのです。


境町自動運転バスの最新情報は境町公式サイトで確認できます。一般利用は予約不要・無料です。

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