分散型ホテルや地域連携プロジェクトなど、観光がまちづくりとつながる新時代。旅が地方を再生させる現場を追います。
旅が町を再生させる──古民家リノベーションと地方創生のいま
地方の風景を歩いていると、ふと目に留まる年季の入った瓦屋根や格子戸。
それは、地域の歴史を静かに語る“資産”でありながら、時に空き家として忘れ去られてきました。
しかし今、その古民家たちが再び脚光を浴び、観光と地域振興の要として再生されています。
観光のカタチが変わる
大量消費型の観光から、地域の暮らしに触れる“滞在型”の旅へ。
近年、「分散型ホテル」と呼ばれる新しい宿泊スタイルが注目を集めています。
これは町や集落に点在する古民家や空き店舗を改修し、「地域全体を一つのホテル」として運営する仕組みです。
宿のフロントが地元カフェ、食堂が地域の飲食店、部屋が改修された古民家。
宿泊客はまち歩きを通して商店街や住民と自然に交流し、地域経済に直接的な波及効果をもたらします。
観光庁もこの仕組みを「地域再生の先導モデル」として評価しています。
分散型ホテルの代表事例:佐渡島「泉の家」
新潟県佐渡市では、佐渡汽船が中心となって空き家再生を活用した宿泊プロジェクト「さどまり 泉の家」を展開しています。
田園風景の中で、地元の食材を使った自炊体験ができる一棟貸し宿として2025年にグッドデザイン賞を受賞。
離島の空き家を再生し、観光の拠点とするこの事業は、
「文化景観を守りながら持続可能な地域経済を育てる」好例として評価されています。
創業支援と観光振興を結ぶ取り組み
埼玉のまちづくりファンドでは、「古民家リノベーション+創業支援」を組み合わせた新しい地域モデルが進行中です。
若手移住者がリノベした店舗でカフェやクラフト工房を経営し、地元の職人技や食文化の発信を担っています。
このような事例は、“観光地ではない地域”に人の流れを生み出すための新しい経済戦略でもあります。
若者の手から生まれる“再発見の観光”
地域おこし協力隊や学生たちが古民家を改修し、宿・レストラン・アートスペースを生み出している例も増えています。
新潟県三条市のグランピングレストラン「TREE」は、古民家をリノベーションした若者主導の挑戦。
地域と食・自然を掛け合わせた体験型観光の新しいモデルとして注目されています。
こうした活動の特徴は、“住む+訪れる+働く”の三位一体化。
地域の外から来た人が観光客ではなく“仲間”としてまちづくりに参加する、新しい構造を生み出しています。
地方創生は「体験経済」へ
観光庁の施策では、空き家活用・観光振興・地域文化の再評価を複合的に取り組むプロジェクトが増加中。
もはや観光は単なるレジャーではなく、**「その土地の営みに参加する体験」**として再定義されつつあります。
古民家再生ビジネスは、地域に眠る空間を舞台に人が交わる「体験経済」を生み出す装置なのです。
結び:旅を通してまちを知る
築90年の家をリノベーションした後輩の事例も、この潮流のひとつ。
人が訪れ、語り、泊まり、再び戻ってくる——そんな循環が地域を息づかせています。
古民家リノベーションは、失われつつある「日本の原風景」を守りながら、
地方が自らの可能性を再発見するための最前線に立っているのです。
次回予告
▶次回(第4回)は、「文化とデザインの再生」をテーマに、「文化とデザインの再生──古民家リノベが伝統をつなぐ」伝統建築の意匠を生かしたリノベーションの手法と価値創造を掘り下げます。

◀前回(第2回)「社会課題をビジネスで解く──空き家再生がもたらす意義と広がり」はこちら
