スポーツビジネスの世界に、新しい企業カテゴリーが登場している。従来の「スポーツマネジメント会社」や「スポーツエージェント」とは一線を画し、スポーツの価値を多様な分野に展開する企業群だ。我々はこれを「スポーツ創造カンパニー」と定義したい。
従来のスポーツビジネスの限界
これまでのスポーツビジネスは、主に以下の領域に限定されてきた:
- 契約交渉やスケジュール管理などの従来型マネジメント
- スポンサーシップの仲介
- イベント企画・運営
- メディア出演のブッキング
しかし、この枠組みでは、アスリートが持つ真の価値や影響力を十分に活用できているとは言い難い。特に現役引退後のセカンドキャリアにおいて、アスリートの経験や人格、専門性を活かせる機会は限られていた。
「スポーツ創造カンパニー」の定義
我々が提唱する「スポーツ創造カンパニー」とは、以下の3つの要件を満たす企業を指す:
1. スポーツは多様な分野に派生する無限の可能性を持っている 競技そのものにとどまらず、教育、医療、健康、エンターテインメント、ファッション、さらには食品や地域創生など、あらゆる分野にスポーツの価値を展開する。
2. スポーツの価値を具現化する必要がある 抽象的な「感動」や「勇気」ではなく、具体的で測定可能な社会価値として、スポーツの持つ力を「見える化」し、届ける。
3. ただし、その本質的な素晴らしさは変えてはいけない 商業化の過程においても、スポーツが本来持つ純粋性、フェアプレー精神、挑戦する心といった本質的価値を損なわない。
代表事例:株式会社ディンゴの挑戦
この概念を最も体現している企業の一つが、大阪に本社を置く株式会社ディンゴだ。2013年の設立以来、同社は従来のスポーツマネジメントの枠を大きく超えた事業展開を見せている。
「Sport$」の哲学
ディンゴのスローガンは「Sport is not just sport, but sport$」。ここで使われる「$」。ここで使われる「 $」には二つの意味が込められている。一つは金銭的価値、もう一つは多様な分野における可能性だ。しかし同時に「But do not make it $ports!」という警鐘も発している。
この「$ports」という表現が秀逸だ。「Sport$」が「スポーツに価値を付加する健全な商業化」を意味するのに対し、「$ports」は「お金が最優先となってスポーツの本質を失った状態」を表している。つまり、価値創造と商業主義の決定的な違いを、一文字の位置で表現した造語なのだ。
大畑大介商店:スポーツと地域創生の融合
同社の最も象徴的な取り組みが「大畑大介商店」だ。元ラグビー日本代表の大畑大介氏が立ち上げたこのECサイトは、単なる食品販売サイトではない。コロナ禍で困窮する全国の生産者と消費者を繋ぐプラットフォームとして機能し、スポーツ選手の影響力を社会課題解決に活用した好例と言える。
大畑氏という「信頼できるアスリート」が推薦することで、消費者は安心して産地直送の食材を購入し、生産者は新たな販路を獲得する。ここには、アスリートが培った信頼関係と影響力が、具体的な経済価値として「見える化」されている。
多分野への展開
ディンゴの事業領域は食品ECにとどまらない:
- スポーツ選手、元スポーツ選手、アーティスト、文化人のマネジメント
- イベント・セミナー・スクール等の企画・制作・運営
- TV・ラジオ・紙媒体・WEBなどメディアコンテンツの企画・制作・運営
- スポーツ関連商品の製造、輸出入および販売
- 広告代理店業務
- ECサイト運営
これらの事業は一見バラバラに見えるが、すべて「スポーツの価値を多様な形で社会に届ける」という一貫した哲学で貫かれている。
業界への示唆
スポーツ創造カンパニーという概念は、スポーツ業界に以下のような変化をもたらす可能性がある:
アスリートのキャリア観の変化
従来の「現役→引退→指導者orタレント」という限定的なキャリアパスから、「現役中から多分野での価値創造」「引退後の無限の可能性」へと視野が広がる。アスリートは自らの専門性や人格を活かした社会貢献の道筋を、より具体的に描けるようになる。
スポーツの社会価値向上
スポーツが「娯楽」や「健康促進」の枠を超え、地域創生、教育、社会課題解決の有力なツールとして認識される。これにより、スポーツへの社会的投資や支援も拡大していく可能性がある。
新しいビジネスモデルの創出
「アスリート×○○」という掛け合わせによる新事業の可能性は無限大だ。食品、教育、健康、環境、テクノロジーなど、あらゆる分野でスポーツの価値を活用した新しいビジネスモデルが生まれていくだろう。
おわりに
スポーツ創造カンパニーという概念は、まだ緒に就いたばかりだ。しかし、ディンゴのような先駆的企業の取り組みを見ると、この概念が持つ可能性の大きさを実感できる。
重要なのは、商業化と本質保持のバランスだ。「Sport」を追求しながらも「」を追求しながらも「 」を追求しながらも「ports」にしない。この絶妙な哲学こそが、スポーツ創造カンパニーの真髄と言えるだろう。
今後、この概念に該当する企業がどれだけ登場し、どのような新しい価値を社会に提供していくのか。スポーツビジネスの新たな章の始まりを、我々は目撃しているのかもしれない。
スポーツ創造カンパニーは概念創造型マーケティング
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